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Beauty Source キレイの魔法

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恋愛セミナー46【御法】

あなたの全てを受けとめてくれる人はいますか?
あなたを一番に愛しているのはだれでしょう。


与え続け、縹渺たる境地に旅立つ愛の人。

第四十帖  <御法 みのり>  あらすじ

紫の上はあの大病以来、すっかり体が弱くなっていました。
出家したい気持ちを再三うったえるのですが、やはり源氏は許そうとしません。

紫の上は法華経を千部書かせ、二条院で供養する法会を催します。
すべてに行き届いた準備をひとりで行ない、源氏は紫の上の欠けるところのない人柄に改めて驚きます。
花散里や明石の君も参加し、これが最後になるだろうと、紫の上はしみじみとした言葉を交わしました。

夏が来ると、紫の上の容態はいっそう悪くなり、明石の中宮(明石の女御)も見舞いにやってきます。
紫の上は自分の死後のことを特に話すわけではありませんが、身寄りのない女房達のことを
それとなく頼んだりするのでした。

明石の中宮の生んだ三宮(さんのみや 三番目の皇子)は、特に紫の上に可愛がられています。
「私がいなくなったら、思い出してくださいますか。」と紫の上が問うと、
「帝よりも中宮さまよりも、お祖母さまがもっと好きなのに、いなくなったら嫌になってしまうよ。」
涙ぐみながら応える三宮。
「大きくなられたら、どうか二条院に住んで庭の梅と桜を愛で、仏前にもお供えしてください。」
紫の上の頼みに、三宮はうなずき、涙を見られないように行ってしまいました。

中宮と一緒に庭の花を見るために紫の上が体を起こしているのを、源氏は嬉しく思います。
少しでも元気な様子を見せると喜ぶ源氏をおいていくのが忍びなくて、
「風に吹かれて散る露のような私の命。」と詠む紫の上。
「露のような儚い世の中に、あなたに遅れて生きてはいけない。」と源氏。
ふと中宮が紫の上が横になっているのをのぞくと、はや虫の息になっているのでした。

物の怪のせいかもしれないと、源氏は懸命に祈祷をさせますが、ついに儚く亡くなってしまいます。
せめて今からでも髪を下ろして尼姿にしようとする源氏を、甲斐ないこととやんわり制する夕霧。
夕霧が紫の上を見ようとするのを、悲しみに惑う源氏はもう止めようとしません。
丈なす髪もただ美しく、光り輝くような紫の上の姿を夕霧は涙ながらに心に刻みました。

紫の上はその日のうちに荼毘にふされて、源氏はそれから泣きの毎日を過ごしています。
「姿形の美しさも含めて、誰よりも抜きん出ていた私だが、母や祖母に幼くして死に別れ、
この世の無常に背を向けたままで、辛い目にも数多く会ってきた。
ついに出家してもよい時がきたのに、こうも惑っていては修業にも身がはいらないだろう。
どうかこの悲しみを忘れさせ給え。」
源氏は阿弥陀仏に一心に祈ります。

おびただしい弔問の遣いが六条院に訪れるなか、元の大臣も弔問の文を届けます。
「葵上の亡くなったのも秋。昔の涙に濡れた袖に新たな涙がそえられていく。」
「昔も今も悲しみはかわらない。ただ秋の物悲しさがいっそうつのるのです。」
元の大臣には弱みを見せないように返事をする源氏。
葵上の時よりも濃い墨染めの衣をまとい、人々にも慕われ限りなく優れていた紫の上を偲びます。

源氏は全ての物事に対して気力がなくなり、ぼうっと女房の部屋で過ごし勝ちになっています。
法事をすることもままならない父のかわりに、全てを取り仕切る夕霧。
源氏はすぐにも出家したいと願いつつ、妻に先立たれた心弱りからと世間に思われたくないまま、
日は過ぎてゆくのでした。

恋愛セミナー40

1 源氏と紫の上  全ての悲しみの終わりと始まり

紫の上の一生は、幸せなものだったのか。
源氏物語を読む人が、己の人生に照らし合わせて考える大きな課題のひとつです。
表立った彼女の人生は、美しく賢く思いやり深く、何ひとつ欠点のない女性。
子供を産んでいないことも、明石の中宮を始めとしたたくさんの子供や孫に慕われる
母としての役割を立派に果したことで補って余りあります。

妻としての紫の上は、源氏という当代一の男性に一番に愛され続けました。
この間、幾度も裏切りを経験しつつも、見事に乗り切った紫の上。
女三宮の降嫁という最大の危機は、源氏への信頼そのものを手放すことで
ひとり哀しく魂を飛翔させたのでした。

亡くなる間際の紫の上は、ただただ母性が表出しています。
明石の中宮や三宮はもとより、源氏に対しても母のように対する紫の上。
子をおいてゆく、先の短さを悟った母の切なさ。
義母・藤壺の代わりとして紫の上を求めた源氏は、全てを受け入れ、
ただ与え続けてくれる存在を失い、再び孤児になったのです。

最大の喜びも最大の哀しみも味わいつくした紫の上。
尼になることさえ許されず、ただ浮世に残されることを強いられた妻。
それでも、彼女の一生はやはり幸せで美しいものだったと言えるでしょう。
源氏がいまだ到達し得ない出家の本来の目的である、全てを受け入れ、手放すことを成しえて、
この世を去ることができたのですから。

愛するものと対峙しながら、その相手と真に向き合えないという壮絶な孤独。
この通過儀礼を経て、紫の上は真に向き合えるのは自分だけであることを知りえたのかもしれません。
紫の上の全てを愛し受け入れたのは、他ならぬ彼女自身。
自らを本当に愛するが故に、生涯、己を高く持し、周囲にも愛を配ることができたのでしょう。

美しく生きることを教え続けた佳人の生涯、ここに閉じ、そして再び咲き初める。
華の人生を歩むと決めた人の心に。


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